アルバイト時代のお話を書いてみようと思うの巻
今日は懐かしい話を書いてみよう。
私は学生時代に居酒屋でアルバイトをしていた。
その居酒屋はその地域では少しばかり客単価(お客さん一人当たりが平均的に使う金額)が高いお店だった。それでもお客様は多く、その地域でもなかなかの繁盛店だった。
夕方から開店準備を始め、空が明るくなる時間までアルバイトをしていた。
完全なる逆転生活。
そんなアルバイト時代。もちろんお客様に声をかけられることも少なくなかった。
それは私が可愛かったとかそういうことではなくて、大体のお客様は酔っているし、まぁ簡単にいえば身体を目当てに声をかけたのだろうと、そんな感じ。
だからこちらも本気にはしないことにして、適当にあしらうことがほとんどだった。
しかしある時、一人のお客さまがある女の子に目をつけた。
この女の子は気立ても愛想もよく、もともとお客様からの評判が良かった。
はじめは、そのお客さまだって他のお客様と同じなのだろうとその子も思っていたようで、「彼氏いるの?」という質問に「いませんよ~」と返した。しかし、その時そのお客様が本気だったことには気づかなかったのだ。
お客様はいつもパリッとスーツを着こなして、毎回ビールを数杯飲んで、同じツマミを頼んで、結構短時間で帰る人だった。そうして、週末には決して来ず、平日の暇な時間帯に来られるのだった。
短かった時間も次第に長くなり、ついにはその女の子が上がる時間までいるようになった。
その子は、本当に彼氏がいないため、その時期ぐらいから調理場の男子が一緒に帰ってくれるようになった。もしもストーカーだったりしたら?なんていう風に考えたからだった。
しかし、その男性は決してそんな気はなくて、あくまでその子にオーダーを頼んで、その子が持ってきてくれることを楽しみにしているようだった。
その子も次第に、その気持ちに気付き始め、この人は害のない人なのだという認識を持つようになった。
(他のお客様も害はないのだけどね)
その頃、彼女はその人から名刺を貰った。少しだけ嬉しそうだった。後ろには電話番号が書かれていたらしい。
でもどちらも連絡はすることはなく。
それから何日か経ったある頃。
その男性はパッタリとお店に来なくなってしまった。
きっと、仕事が忙しくなったか転勤してしまったのかもしれないね。そんな感じでみんなで話していた。少し話しの種になっていたこともあって、残念感が否めなかったのを覚えている。
季節は流れて、その子もその人のことをもう忘れかけていた時だった。
開店準備の最中にお店に放り込まれていた新聞を拾った彼女が腰から崩れ落ちた。
地域のニュースを伝える欄にその人の名前が載っていた。名前の下に容疑者逮捕の文字。
そんなことをするような人には見えなかったというのがみんなの意見だった。
その日彼女は早退したが、もう完全に抜け殻のようになっていた。ショックをかくしきれていなかった。
もしもあの時に連絡をとっていたら。
その人が今どこで何をしているのかは知らないけれど、この前話したシリアルキラーよろしく、もしかするとその人はその類の方だったのかもしれない。
というわけで夏の日に涼しくなるお話を一つ。
夜だけ冷える日は温めたゆず茶にはちみつを入れると暖まれますよ。
本日はこの辺で。